ナイジェリアの貧困地域から世界へ(10)

いよいよ後半の開始だ。前半は少し深いアンカーの位置にいた10番サンデーが、後半は少し前目のポジションになった。ムリコーチからの指示だ。若き勇敢なナイジェリア選抜は点を取りに行く布陣になったのだ。彼らは勝負を決めにいったのだ。

ピッチを走る若き勇敢なナイジェリア選抜に疲れが見えるものの、広州富力足球倶楽部も同様だ。お互いに短期間で7試合目なのだ。しかし試合内容は決勝戦だけあって予想を裏切らない好試合だ。息を飲むとはこのことだ。アバヨミ氏はずっと立ち上がっている。通訳のマキンデも世話係のアデバヨも立ち上がったままだ。加藤社長はナイジェリアの民族衣裳を身に纏いベンチに座ったままだ。ムリコーチはテクニカルエリアで戦況を見つめながら、時折的確な指示を出していた。早川トレーナーは選手に何かあればいつでもピッチに出られるように、前列のベンチに座って身構えていた。自分はといえば、ベンチに座ったり立ち上がったりと終始落ち着かなかった。ベンチに座るリザーブの選手は落ち着いて戦況を見つめていた。彼らが一番落ち着いていたのかもしれない。いつでも試合に入れるようにイメージを作っていたのだろう。

広州富力足球倶楽部の20番のストライカー楊選手は今大会の得点王だ。上背もありポジショニングも上手い。しかしそれ以上にナイジェリア選抜の15番のババが彼をマンツーマンで抑え込むのだ。20番に全く仕事をさせない。この試合の影のMOMはババだ。

iPhoneのストップウオッチを確認すると後半45分であった。この決勝戦はアディショナルタイムが設定されず、後半50分になると自動的に試合は終了するのだ。この時点で残り時間は5分となる。試合は0-0のままだ。広州富力足球倶楽部のコーチは日本語と中国語でピッチで忙しく走り回る選手に指示を出している。ナイジェリア選抜のムリコーチはテクニカルエリアで時折指示を出しながら戦況を見つめていた。いつものスタイルだ。

残り時間が4分となったところで、若き勇敢なナイジェリア選抜の10番サンデーが左サイドを駆け上がる。広州富力足球倶楽部の選手2人に囲まれるが、サンデーはキレていた。ステップを踏んで軽やかに右に切り返すと、グランダーの高速クロスをゴール前に出した。高速クロスは広州富力足球倶楽部のディフェンダーが足を伸ばせば届きそうだが届かないところをすり抜けていった。そこに走りこんできたのは、スプリントテストで誰よりも速く、両親はすでに他界しており、帰る家の無い幼いサッカー選手、ダヨった。

走る若き勇敢なナイジェリア選抜の選手。




試合は0-0の引き分けで残り4分。




左サイドから高速クロスをだす10番サンデー。




ペナルティーエリア外から走り込む快速スプリンターのダヨ。