義足のスプリンター 井谷くん

昨年の10月からしばらく来てなかったアラブ首長国連邦ドバイ。訳あって久しぶりに来ることに。そもそも毎月ドバイに通っていたのだけれど、ここ最近は3ヶ月に一度のペース。それでもやはり慣れたものだ。ドバイに通ってすでに5年近くになる。

そんなドバイではパラアスレティックスの陸上競技大会が開催中で、友人の井谷くん も義足のスプリンターとして出場している。3年前にバイクの事故で片足の膝下を切断した井谷くんは、1年かかる入院生活とリハビリ生活を2ヶ月で成し遂げて大学に復帰し、その後パラの100メートルのスプリンターになった男だ。23歳と若く1年で10キロの筋肉量を過酷なトレーニングで増やし、みるみる間にスプリンターとしての体に。笑顔は底抜けに明るく、誰に教わったのか礼儀も正しい。23歳の若者にしては気持ちが悪いほど礼儀が正しい。礼儀が正しいって、それだけで武器になる年頃だ。礼儀を叩き込んでくれた人達に感謝しかないね。

大会結果はというと、井谷くんは見事に金メダルを獲得。向かい風2.2メートルとかなり走りにくかったらしいけれど、そこは圧巻の走りで表彰台の真ん中へ。たまたま自分の到着日が井谷くんのレースの日ではなかったので、実際に活躍している姿を見ることはできなかったけれど、井谷くんの活躍にはいつも胸が踊る。東京2020も控えている。必然的に若い義足のスプリンターに期待してしまう。だから彼を応援している。

アスリートは孤独で過酷だ。スプリンターは世界選手権などを転戦して1人でスタブロに向かう。4年間もの月日を練習に費やし、本番は11秒前後で恐ろしく刹那的だ。しかしそのために4年間を色濃く過ごして全てを11秒前後にかける。だから人々はその刹那的な瞬間に魅了されるのだろう。自分もその1人だ。だからドバイまで来て井谷くんの練習姿を見ておきたかった。

井谷くんの走る姿はスプリンターそのものだ。遠くから見ても近くで見ても横から見てもスプリンターだ。しかもまだまだ記録の伸びを感じさせる。エビンデンスのある理論と現場での実践をまだまだ叩き込んでいる最中。スプリンターになってまだ1年半。東京2020まで1年半。怪我だけには気をつけて頑張ってほしい。心底応援している。