海と本

サーフィンは夏のスポーツだと思われがちだけどそんなことはなくて、波があればいつでも出来る。冬でも西高東低の気圧配置が決まれば日本海の波のサイズが上ってくる。ぎゃくに夏の太平洋にまったく波のない日が続くことも多く、そんな時は潮の満ち引きによって、サイズが一瞬でも上がることを期待しながら、海岸沿いに停めた車の中からアウトを見つめて、乗れる波を待つサーファーも多い。

若い頃には、波のないことを天気予報で知っていても、一瞬の波のサイズアップの奇跡があるかもしれないと、太平洋に向かったことは数知れず。けれども天気予報はまぁまぁ正確で、波が無い予報であれば、波はやはり無いのだ。波は無いけれど海岸沿いに停めた車の中から、アウトを見つめてサイズが上がるのを待つ。健気だ。

そんな時に、サイズが上がることもない波を車の中で待ちながら、今野敏の小説を読むようになった。仲間の一人がいつも車の中で今野敏や北方謙三や大沢在昌のハードボイルド系の小説を読んでいたことに影響された。ちなみにその仲間は車での移動中も小説を読んでいたので、一度自分も真似をしてみたら、一行も読み終わらないうちに車に酔った。

自分はといえば、特に今野敏の小説を好んで読んだ。肌に合ったのかな。昔のハードボイルド系の小説はにはスマホも最新の火器銃器も登場しない。昔のスタローンの映画のよう。だからこそ話の展開がジリジリする。ことがスムーズに進んでいかない描写をよく覚えている。

そんな今野敏のハードボイルド系の小説で、とても気に入った一冊があったのだけれど、本のタイトルは忘れてしまった。本のタイトルはまったく思い出せないけれど、終盤に湖畔で機関銃を撃つシーンで、その銃声が「バババババッ」ではなく「ラララララッ」だったと記憶している。

その「ラララララッ」と表現された小説に、またいつか出会えると思いながら、今野敏の小説をすべて読む旅を少し前から始めた。いまだにその小説には再会していないけれど、新しい本にたくさん出会ってとても贅沢な時間を過ごせている。コロナ禍の影響もあって、ここ最近は本当にたくさん本を読むことができている。

本を読むことは人と会うことと同様に尊いし有益だと思う。自身の人生が豊かになる。

これからも今野敏の本を読みながら、その小説に再会できたらどんな気持ちになるのか、を、楽しみに今日もまた本を手に取る。そしてその本に再会できたら海に出かけてみようかな。