ナイジェリアの貧困地域から世界へ(11)

決勝の試合も残り時間が4。スコアは依然として0-0だ。と、その時、若き勇敢なナイジェリア選抜の10番サンデーが左サイドを駆け上がる。広州富力足球倶楽部の選手2人に囲まれるが、サンデーはキレていた。ステップを踏んで軽やかに右に切り返すと、グラウンダーの高速クロスをゴール前に出した。高速クロスは広州富力足球倶楽部のディフェンダーが足を伸ばせば届きそうだが届かないところをすり抜けていった。そこに走りこんできたのは、スプリントテストで誰よりも速く、両親はすでに他界しており、帰る家の無い幼いサッカー選手、ダヨった。



スピードを緩めないダヨはトップスピードのまま、サンデーからのグラウンダーのクロスを右のインサイドであわせた。ディフェンダーとキーパーにシュートコースを消されて右下しか空いていないゴールに向かって。広州富力足球倶楽部のキーパーは手を伸ばしてダヨのシュートに向かってダイビングした。さすが決勝で戦う広州富力足球倶楽部のキーパーだ。シュートが左手に触れた。その刹那、キーパーの左手に弾かれたシュートはサイドネットに吸い込まれていったのだ。歓喜に沸く若き勇敢なナイジェリア選抜。ナイジェリア選抜もだが、スタンドの観客も大爆発だ。もちろんベンチのコーチングスタッフたちも雄叫びをあげていた。自分はと言えば、喜びの感情と冷静さを保とうとする感情が同居して、味わったことなのない精神状態だった。若き勇敢なナイジェリア選抜はゴール後のパフォーマンスも忘れなかった。歓喜に沸きながら内なる感情を表現して踊るのだ。とびきりの笑顔と自信に満ちた顔で踊るのだ。

程なくして試合の終了を告げる主審の笛が鳴り、若き勇敢な世界チャンピオンのナイジェリア選抜は、スタンドに向かって走りだした。26時間かけて遠い西アフリカからやって来たナイジェリア選抜を、応援してくれたスタンドの観客や、予選リーグと決勝トーナメントで敗退してしまったチームの仲間たちにお礼に向かったのだ。パナソニックスタジアムは観客席とピッチが近い。世界チャンピオンのナイジェリア選抜の選手たちは、応援してくれたスタンドの観客や仲間たちと一通りハイタッチをした。観客も仲間たちも世界チャンピオンのナイジェリア選抜も満面の笑みだ。全力で戦った広州富力足球倶楽部の選手たちはピッチの上で泣き崩れていた。ナイジェリア選抜が優勝の歓喜のセレブレーションを終えると、広州富力足球倶楽部の選手たちとお互いに労を労っていた。これがU12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジの大切な大切な大会要素だ。こうしてこの世代から世界中に切磋琢磨できる同世代の友達や親友が生まれていくのだ。素晴らしい。

歓喜の瞬間。




つづく